― それは、10年も昔のはなし ―
[少女は捨て子だった。
10年前、教会の前に少女は捨てられていた。
赤ん坊だった少女にはその時の記憶はない。
けれども、確かに、
教会の前に捨てられた赤ん坊をジムゾンが見つけ腕の中に抱いた時、
それまで眠っていた赤子は灰色の毛布の揺りかごを揺すられ目を覚まし、
それが何か分からないだろうに空からふわりと降ってくる雪の華を見て、
「あー」だとか「うー」だとか、言葉にならない声を上げた。
一生懸命に雪を掴もうとして小さな手を伸ばす赤ん坊。
ちょうど毛布の中を覗き込んだ神父の頬に向って伸ばされるようにも見えた。
神父が小ちゃな手を取ったのかは定かではない。
けれども、確かに、……赤ん坊は神父を見て微笑んだ。]