カシムは家に帰りたがっていました。
そんな彼が目の前で死んだというのに、避難艇に乗って自分だけ助かりたいとは思えません。だから艦に残りました。
俺はクロトフとの戦争で兄を失いました。敵国には恨みがあります。
密偵がこの艦を…ひいては本国を害しようとするのならば、必ず探し出して、捕えなければ気が済まない。
[そうだ、これは私怨だ。
口に出して自覚すれば、胸に燻る炎が勢いを増したような感覚がした。
弟が自分の年になるまでに平和な世にしたい。自分はその為に生きてきた。
けれど自分は何よりも、兄を奪った敵国が許せないのだ。]