― 塔、正面側 ―
陣形、トゲ三角!
ワイン瓶投げ用ー意!
てっ!
[塔の外周を、左右二手に分かれ裏から廻って来た賊の一党は、まず塔に取り付く前衛部隊を横から急襲するべく、壁伝いに走らせる。
戦らしい戦をするわけではない賊でも、彼女の指揮下ならば多少の陣形は組めるのは――うちのバカたちが『紡錘』だの『錐行』だの難しい単語分かるわけないじゃん――といろいろ苦心した成果だろうか。
地響きと砂塵を巻き上げながら襲いかかった賊の集団は、接敵直前にさっきまで飲んでいたワインの空きビンをそれぞれ手にし、初段の攻撃代わりに投げつけさせた。
本来は釘を打ち込んだ棍棒を投げるのをあえて拾い物の得物を使ったのは、奇襲をかけに来ておいて本命を使うタイミングがここではないことを示していた。
ただそれでも疾走したまま投射するだけなら扱いやすさはほぼ等しく、敵を倒すよりも確実に突破の楔を打ち込む目的には充分だろう。
殺傷力はほとんど無いものの、投げつけられてさすがに痛くないわけはない――怯みを与えてそこを突破口に毒牙のように食らいついた]