― 酒場にて ―
[わたしが食事を終える頃を見計らって、目の前に小さなボウルが差し出された。
中にはカットされた、…おそらく果物だ。真っ黄色でみずみずしく輝いているように見える]
…これは?
[頼んだ覚えのない品に、器から顔を上げ店員を見る。すると、あちらに居る方からの差し入れだと、わたしの背後を指した。>>272
振り返った先に見たのは、先ほど見たのと同じ人だかり。その輪の中心に居る人物、───今まさに歌を披露している吟遊詩人からだという]
どうしてかしら?
[首を傾げると、下ろした髪が揺れ頬にかかる。もしや、顔の湿布を見られたのか、それに同情を寄せたのか。
どうやら羽振り良く上機嫌だったようなので、幸せのお裾分けという処かもしれない]
むしろ、わたしの方がチップを出さないといけない処なのにね。
[聞こえてくる陽気な調べに、思わず口元がほころぶ。タダで楽曲を聞いたあげくに、奢られてしまった。今更彼女にチップを渡すのも、デザートの対価を支払ってるようで野暮なのかもしれない。
わたしは吟遊詩人の気まぐれであろう好意に、甘える事にした]