[最後にもう一度、感謝の思いをこめて美しかった草原馬の鬣を撫でた。
ロープの強度を確認しながら、そろそろと、崖を降りる。
全身に力が入らず、出血からか、ぐらぐらと頭が揺らいだ]
…っ、……
[何度も足を踏み外し、宙ぶらりんになりかけながら、漸く岩場へと降り立ったのは、既に夜明けの頃だった。
ロープを回収し、気づかれないように短くまとめて海に流す。
岩棚には手綱を取り去ったウルドゥンと、鐙やナイフの痕跡が残ってしまうはずだ。
だが、崖の上から見える位置でもない。
敢えてこの急峻な崖を昇り、確かめようとする者はいないだろう。]