― 過去 ―
[それは数年前のこと。
大きな事件……いや"事故"が船内で起こった。
とはいえ、階級に見合うだけの情報は入るものの、実質的な権限は何もない自分にとってなにが出来るわけでもなかったのだけれど。
花屋……といっても、まだ今のように品質管理も、切り方一つにしてもなっちゃいない店だったと思うが、いつものようにジョニーに店番を任せてマーティンのところに遊びに行く途中であった。
バタつく船内を尻目に、第一エリアへと向かおうとしていたさなかのこと。]
え?私に言ってる?
……う、うん。そうだけど……君は?
[まさか、船員の居住区で、船員か?と聞かれることがあるとは思いもよらず>>333、動揺した声が出る。
恐らく花屋をやっていることは知られていたし、そうでなくとも軍支給の制服を着ていたから、船員には、自分が船員だと認知されていただろう。
思わず足を止め、その部屋へと足を向ける。
少し背中がざわりと総毛立ったような感覚を覚えるも、随分若い声であったので特に警戒心もなく近づいた。
……あんなに質問攻めにされたのは初めてだったけれど。]
もー!聞き過ぎ!
明日も来るから今日の分はおしまいよ。
[放っておくと永久に質問攻めにされるのではないかという不安から、止むを得ずそう言った。
それに、答えられないことも当然あったわけで、いつになく活用された頭はクタクタだった。
そうやって何回か足を運ぶにつれて、花屋のことであったり、軍のことであったり、話をしたかもしれない。
……ただ、こんな事件が起こり、兄を失くした彼の心情を慮れば、どうしたって、自分の実験のことは話せなかっただろう。]