[この船に“人狼”がいる。
先程のこの男の身体能力は、明らかに人間のものではなかった。
ゆえに人狼であろう、けれど変化していない以上確証はない。
人間ではないと言ったのは、そういった意味での、表現だった。
程度こそ遥かに開きがあるが、
自分も“ニンゲンではない”というのに。
もしかしたら、この男も、
己には計り知れない事情を秘めた、何者かであるかもしれないというのに]
――… 俺の言った、“人間”は。
いま、この船に乗っている、
“人狼”ではない、人狼に食われようとしている、ひとたち。
それから……“俺でもない”ひとたち。
[伏せておくべき言葉であったかもしれない。
けれど、いまこの男を前にして、言葉を繕うことはしたくなかった。
そうして、静かに、その男の言葉を、ひとこと残らず――聞き続ける。]