― 東屋へ ―
[ 過去に耽りながらも、
幸運なことに今回は無様を誰にも見られず
しばらくして画家の姿は庭園の一角にあった。
長持ちするとの理由で
買い足してきた焼き菓子を小棚に仕舞う。
画材と同じ場所だけれど、不衛生だなんだと
特に何か文句を言われたこともない。
…その、習慣づいた所作に加えて
画材の隙間に一本の小瓶を挟む。
絵具ではない。透明の液体を湛えた容器を。
それは散策に出た目的の一つで
法外な値段のそれを手に入れた後には
持ち合わせが殆ど残っていなかった。>>57 ]
…使わないまま画材に紛れさせて
忘れてしまうことが出来たらいいんだろうけれど。
[ 養父が東屋へ来ることはない。
絵のことについて、後進に後を託した彼が
ローレルへ何かやと言うことはなかった。
養父なりのけじめなのだろう、と思う。
ともすれば、小瓶に触れる可能性があるのは――、 ]