[個室に存在していた者も他に居たかもしれない。
白い毛玉のような男のイドは、気づかれ捕えられようとすれば
51kmくらいのスピードで逃げただろう。
脱兎の如く。耳は無いが。
ぐるりと巡回して最後の一室、カシムの部屋に辿り着く。
自分の手首に噛み付き、血を得ていた彼は
その後、どうしていただろう?
ベッドに転がりがたがたと震えていただろうか?
蹲って泣いていただろうか?
解らずも、その光景を見つめ思い出すのは
先程、美酒を馳走して貰った後輩の事。
己の上へ馬乗りになった妖艶なその姿は
一番最初、カシムと同じように涙し
殻に閉じ篭る子供のようだったのだ。]