― 地下迷宮 ―
[石を積んで出来た壁と、くすんだ色ばかりが埋め尽くす世界。
喧騒は遠くに過ぎ去り、音もない。
歪めていた瞳を開き、庇うように翳していた片腕を払うと、
真っ直ぐに伸びる通路から枝別れする先が見える。]
……これも余興の一つと言うことでしょうか。
[恐らく己のみに絞られた事実上の退場であろうが、
しっかりと愛妻を巻き込む男。
別離を許さぬと告げた通りに侍らせるまま、
まるで共に在ることが当然とばかりに溜息ひとつ。
気怠けに前髪を掻き揚げてから、眼鏡のブリッジを押し上げ]
――――イングリッド、転移酔いはしていませんか?
[彼女の額にも指先差し伸べ、するりと労わるように撫ぜた。*]