[黒猫が不意に人の形を取る。
端正な所作を見せた青年の呼びかけによれば、天井の偉丈夫は「テオドール」という名だそうだ。
知らぬ名ではない。
“親”が、小気味よいほど──と賞賛したそれは悪名に他ならなかったが。
そして、サラリとこちらを無視してみせた猫男もまた、例の企てに関連する者だと知れる。
それを「恩恵」というあたり、よく躾けられているといったところか。]
……、
[まったく同じ感想をテオトールが口にしたので、一瞬、親近感を抱きかける。
おこがましい、あるいは危険な感情の揺れだと自制した。]