[アースガルドアレルギーのことは、さすがによく覚えている。
あの星の話をするときには目が笑っていなかったような気がするのだが、どうだったか。
何処とも知らぬ地を這って殺しあうか、船の上で暮らすことしか知らなった自分には、星を嫌い憎む、ということの意味が全く分かっていなかった。
(本当に、――… 何もかも、言い訳にならないくらいに、
自分がしていたことの意味を、分かっていなかった)
自分が何者であるか、後にその意味が分かったとき、
ふ、と、アースガルドのことを語るテオドールのその声音の底に聞こえたような気がした、揺らめく何かを思い出した。
そうか、アースガルドの違法兵器(エインヘリャル)である自分は、もしかしたらあの人に憎まれる者であるのかと――… そう感じた記憶がある。
リストに記載されている情報において、自分の出身地は、養父がいた惑星となっているはずだ。
けれども、権限――もしくは技術力がある者なら見られる船内のデータにも、載っていること。
何かのきっかけで知られることも、もしかしたら、十分にあり得ることだろう。
祖国はない。
故郷はない。
ただ硝子に書かれた絵のように、光に透かして憧れるもの。
ないがゆえに、奪われる痛みを、きっとわからない。 ]*