― 数日の後 ―
[城館に帰還して更に数日が過ぎた。
まず、山猫への変身能力を獲得したディークの、ふかふかの毛皮に包まれて、丸まって眠るのが癖になった。
斑点の並ぶ栗色の背を毛並みにそって撫で、折り重なってぬくぬくとぬくもりを分け合う。
そんな折には、ぽつぽつと昔語りをした。
幾百も花火の上がる、水の都のカルナヴァルの夜。
駱駝を何頭も連ねた隊商の往く砂漠の月。
繁栄と退廃の、霧に咽ぶ都。
日の沈まぬ極寒の地で見た極光――
ディークは、何故かコンラートが過去に関わった人間の話を聞きたがった。
愛し愛された記憶。
索漠とした孤独と闇黒の汚辱に、たまさかに零れ落ちたいくばくかの宝珠。
そのどれもが愛おしく尊い。
たとえ繰り返す別離に心を切り裂かれようと、彼らがくれたぬくもりが己を生かしてくれたことは、変えようのない真実だ。
そうして語るうちに、永い生のところどころにぽっかりと開いた穴に行き当たることもあって。
あやふやな記憶しか持たぬ長生者は、憶えていないんだよ、とほろ苦く笑った。]