[刺すような、殴りつけるような赤い頭痛に米神を抑える。
呼吸が遠ざかる。
体温が遠ざかる。
視界が真っ赤に染まる。
口元を抑え寝台から転がり落ち、バスルームの扉をバタンと引き明け、駆けこむ。
部屋の中で吐き戻すことをなんとか堪えられたのは行幸と言っていい。
腹の中のものをすべて吐き戻し、荒く息を吐いた。]
……名誉ある死者は、最後の戦いへ。
疾病で死んだ者は――… かあ。
[けら、と、小さな苦笑と咳が水に落ちた。
心を抉るような痛みと形容するには、“ない”ものを抉るのは聊か難しく――…
いまも瞼の裏を突き刺そうとする砕けた硝子のような光景の欠片を、そのまま強く目を瞑って、痛みを探そうとするばかり。
こみ上げる吐き気が収まった頃合いを見計らって、洗面台に置いてあった薬を震える手でひっつかみ、口に放り込む。
気力だけでそれを飲み下しながら、ずるりと壁にもたれ、ゆっくりと息を吐いた。
目を閉じ、口ずさむようにその唇が象ったのは、自身があの船に運び込まれたとき、入っていた箱に刻まれていたという文字だ。]
『ヘルヘイムより、死者の爪を』
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