― ジークムントの部屋 ―
[弟と言葉を交わす我が子を見ながら、教会でまみえた日々を思う。
訪問は数か月、時に数年の間を置いて行われただろう。
年追うごとに美しく、たくましく成長していく若者に、
想いは募り、心のざわめきは耐えがたくなっていった。
月の精霊、薔薇の化身でいられるうちに、と
これを最後と心に決めた逢瀬の時。
『君の生を、この
この世界に飽いたとき、どうにもならなくなったとき、
あの森の奥にある野茨城に来るといい。
君がもっと自由に生きられる世界へ、連れて行ってあげよう。』
そんな言葉を残したのは、未練か、誘惑だったのか。]