―自室―
[叫び声>>296が空気中を伝わって、鼓膜を震わせた。]
また、一人――いや、もしくは二人……か。
[付け加えた言葉は確信ではなく、今日に限っては、宿内に蠢く感情が煩くて、外のことまでは頼りの勘すら働かない。]
……。
[重たい身体を持ち上げて、立ち上がる。向かうのは叫び声の源泉、ペーターの元だった。これについては、驚くような感情こそ持ち合わせていないものの、自分でも予想外の行動だった。
実際にそこに辿り着くと、説明できないと告げるシモンの言葉>>333を含めてそこでの出来事には興味を示さず、ただ手当ての手伝いを申し出ただろうか。
――それは、誰に望まれて?
頭の中に、波紋のように、その問いが浮かぶ。しかし、それに答えられるだけの中身は己にはない。
望まれなければ行動しない己が、自発的に手当ての手伝いを申し出る姿――シモンをはじめ、他にもその場に人がいたならば、その行動はどのように捉えられただろうか。不気味に、或いは人間的に捉えられることもあったかもしれない。まるで感情を持ち合わせない己が。そう考えると、この上なく滑稽なことに感じるのだった。]