― 内乱終結後・ヴォルケンシュタイン家屋敷 ―
[窓辺からの風が、下ろしたままの長い薄紅色を揺らす]
[内乱がなし崩し的に終了した後、前線へ送られていたヴォルケンシュタイン家の末子は、再び屋敷へ戻る事が許されていた。
一族の長である父や、代表として中央の軍へ参加していた長兄は、此度の内乱の責任を問われる立場となった。
また、他家出身の母や貴族と婚姻関係を持つ兄姉らも、貴族同士の権力争いと無関係ではいられなかった。
結果、そのようなしがらみを未だ持たぬ末子だけが、混乱から遠い位置にいることとなった]
……皮肉なものですわね。
氷竜軍と海精軍が一つになろうという時に、同じ海精軍に属していた一族や縁戚の者が、ばらばらになってしまうとは……。
[ベッドの上で膝に本を広げていた娘は、物憂げな眼差しを窓の外へ向けた。
この所、部屋から余り外に出る事がなくなっていた。
その理由は、表向きは療養のため、裏向きは無用な争いに巻き込まれぬようにするため――とされていたが。
更に裏の理由――前線での怪我や一族の混乱による心労が、体力を奪っているのではないか――を噂する者も、少なくはなかった]