[彼女が、ロロンドの本当の娘ではないことは当初から知っていた。では、画家の養女となる以前の彼女は、いかなる娘だったのか。
それをロロンドから聞いたことはない。彼女から聞いたこともなかったんじゃないか。だから戦いで両親を亡くしたようだという風の噂こそあれ、それ以上彼女の背景を耳にしたことはないように思う。
ウェルシュは彼女の過去を追求しようとは思わなかった。
彼女はロロンドの娘なのだ。ウェルシュが幼い頃より宮廷に出入りし、時に幼い王子を真剣に叱って雷を落としてくれる暖かい宮廷画家の娘。そしてまた、自身の古くからの友だち……昔馴染みだ。
大人になって、少しばかり以前よりも距離は開いてしまったけど、今もこうして外で会えば小言をくれ、笑いあってくれる人。そんな彼女に水から打ち明けられたならともかく、そうではないものを追求する気はウェルシュにはなかった。
それが本当に良かったのかは分からない。或いは聞くことで、彼女をもっと深く知れたのかも。
それでも過去を、…過去のつらい記憶を質すより、”今”の彼女を大切にしていたかった。その中に心があると、そう信じていた───*]