― 回想 ―
[ 母星から遠く離れた星で開催された学会の帰り、
宇宙船、シルバー・メリー号に兄と乗ったその日のことだ。
確か学会の準備で徹夜続きだったので、昼間だというのに
兄弟二人で部屋の明かりを消して寝込んでいたのだったか。
…ふと。何かを引っ掻くような、
何かが壊れるような微かな音を聞いた気がして目が覚めた。
二人用の客室にしては広い、一等客室。
隣に寝ていた兄の姿がなく、ベッドルームに併設された
ドレッシングルームの方から薄暗い明かりが漏れていた。
まさか、強盗でも――と嫌な予感がロー・シェンの胸を過る。
セキュリティの確りした船を選んで、おまけに中でも
更にセキュリティの確りしたこの個室を予約したというのに。
仕事柄、発掘作業で鍛えられてはいるがそれは体力面だけのことで、もしも賊が武器でも持っていようものなら勝てる自信はない。
しかし兄がこの場にいないことがロー・シェンの足を
ドレッシングルームの方へと進ませた。
あの兄が書置きの類も残さずに部屋の外へ行くとも考えにくいし、
あれは兄本人が何か探し物でもしている音なのでは?
……それを確かめて安堵してしまいたかった。 ]