― 静観の刻 ―
[地上に天の軍勢が攻め来りてより暫くの時。
一見して、天の攻勢は凪いだかのように思われる。
だが天上に光の巨船は依然としてあり、
敵対すると見えた者、
天に歯向かう者への刃が鈍ることはなかった。
それでも地上の民にとっては一時の凪であり、
その中には、天使に従い救いを求める姿のないではなかった。]
『天に歯向かうというのか。
天使様に逆らう者に───死を!』
[ぽつぽつと、このような者が現れた。
ありふれた刃を手に握り、それを同胞へ振るわんというのだ。
総じて、そうした者は天への信仰を口にした。
信仰を───…、いや。狂信を。
天使を見た、との証言がある。
光に触れた者が、その性格を一変させたとの声も。
そうした話は救世主の齎す奇跡の話とは別に、
染みのように静かに、じわりじわりと広がり始めていた。]