―回想/十年前―
[神子の訪れに教会の者は浮足立っていたように思う。
世話役のシスターに紹介したいと言われ神子のいる部屋に向かった。
その途中の曲がり角で、どん、とぶつかる衝撃がある。
驚きに目を瞠り何事かと視線を下げると子供の姿が其処にある。]
――…ん、怪我は無い?
[案じるような響きを伴う声を降らせた。
見上げた子供の眸には大粒の涙と頬に流れる跡。
泣いていたのだと分かれば怖がらせぬよう微かな笑みを見せた。
やわらかな布から伝うのは濡れた感触。
顔を押し付けた子供の名も知らぬまま抱きとめてあやすようにその背を撫で遣る。]
大丈夫、大丈夫。怖くはないよ。
心細いなら傍にいるから……
[ひとりじゃないよ、と囁きをのせて泣きやむまでアデルに声を掛け続けた。**]