[かつて───それほど遠くはない過去のある時、こんな、月の美しい夜に人間を攫ってきたことがあった。戯れか、恋にでも落ちたか、その時の自分の心持などとっくに忘れている。ただ、瞼の下から赤い雫を零している姿を見た時、思ったのだ。 この下の眼が見たい。衝動の赴くままに城へ連れ帰り、血を与えた。瞼を吸った時に背筋を駆け昇った感覚は、今も覚えている。それは吸血鬼さえも侵しかねない魔素の滴り、危険と裏腹の甘露だった。]