→ 宿屋 ―
[配達の最終目的地は、女主人が経営する立派な宿屋。何でも、村で一番頑丈な建物だとか。
非常時の避難所も兼ねているらしいが、温暖な村にそんなもんが必要とは到底思えない。一体誰がそんな目的を思いついたのやら。
それはさておき、いつものように厨房へ小麦粉入りの麻袋を積み上げたあと、レジーナを探して声をかけた。]
レジーナさん、配達終わったぜ。これでいつ客が押しかけても大丈夫だ。
[例によって、お気楽な発言をしてみせたのは、宿では閑古鳥が鳴いていることを知っているせい。前向きな発言をしていたら、いつか現実になるかもしれないというかすかな希望があったのだ。]
(やっぱりもっと温泉の売込みする必要がありそうだ。)
[あちこちの村や人に宿屋の温泉はいいと呼び込みをかける割に、客足が伸びないので、せっかくのいい宿でレジーナの食事も美味しいのにな、と男は残念に感じていた。]