[そのまま腕を下せば、彼にとっての好機が巡る。
我が身にとっては、巧緻に張り巡らせた罠が。
翼を拡げれば、天は彼を僅かに引きあげるだろう。
御使いにのみ許された光を糧とする地上からの別離。
些か見上げるように、微かに顎を持ち上げ。]
―――― おいで。
[赫く眸と薄い笑み、或いは堕落への引力。
彼の背中を重くしている泥が声に応じて泡立ち湧く。
じゅる、と汚らしい音を立てて肩甲骨に吸い付き、翼と背中の境目を泥が埋めては流動的に巡り出す。祝福以外に触れることを知らず、まして、触れられることなど知らぬ彼に与えるは焦燥。
翼に走らせるは緊張と不快。そうして、泥が彼の背を地へと突き落とすように重量を変えた。
花嫁でも抱くかの如く誘って拡げた、怪物の腕の中へ。**]