[フォルテア家は今でこそ武門の名家として公国の貴族に名を連ねているが、武勲により侯爵位を授かったのが三代前と、比較的新しい家柄である。
公的な場での発言力は数ある旧家と比べればまだ低いと言え、それゆえ、腹に一物抱えた政界の魑魅魍魎と対等に渡り合うだけの政治的手腕が当主には必要とされた。
帝王学を学び、人当たりよく柔軟で、怜悧な頭を持つ。そんな兄と。
真意の見えぬ交渉術に向かず、剣振るのみを得手とする自分と。
どちらが“家”を預かるに相応しいかは、誰が見るも明らかだ。
両国の緊張も高まり、開戦の気配もある。
これは偏にフォルテア家の為だ、と。]
[一族を預かる当主としての責務から逃げたいわけではない。
だが、適材適所という言葉もある。
継ぐべく育てられた者を飛ばしてまで血に拘るのか、と、自身を取り巻く貴族社会への反発は、もしかしたらどこかにあったのかも知れないが。]