[>>289重なる唇の感触を、静かに目を閉じて心に刻む。
彼にはいろいろなものを貰った、いつも無条件に与えてくれた。
何時も、何か返したいと思う度に、自分は彼に返せるものを何も持って居ない事を思い知る。
祈る神なんて居なかったから、最期を迎える前に、彼に巡り合えた奇跡を、心の内で王子に感謝した。
「心を君に」
彼は何時も返し方も扱い方も判らないものを唐突に寄越す。
彼が、待って居てくれるなら、預かった彼の心を抱ききっと彼の元へ還ろう。
肉体を捨てれば彼を護るものになれるだろうか?
魂だけでも、永久に、傍に。
…そんな夢みたいな妄想に救いを求める自分に、苦く笑った]