― 十数年前の ―
[肩も強張っているし足元も軽やかといえる動きでは無かったが>>286
曲を奏でていたレコードが動きを止めた時には、
彼の表情は先ほどよりもずっと穏やかな相にみえた。]
こちらこそ、つきあってくださってありがとうございます。
フェリクスさん?
[姓は彼の父親に会う前に、既に耳にしている。
名乗られた名前を反復し、もう一度軽く礼をしてから。
主人に付けられた名前を名乗るのは、なんとなく気が引けたが]
………ソマリです。
[猫の品種だ。貧民街で過ごしていた時に、名前などない。]
機会があれば、また是非。
[薄らと微笑んで、立ち去る彼を見送った*]