[砦の元守備兵の中には、男の顔を見知るものがあるらしい。
それもそうだろう。
ダンクラードの演説の折に顔を見たのかも知れないし、それ以前より知るのかも知れないし、或いは砦占拠の折に見知ったのかも知れない。
ともあれ、あれが将だと見て、刃向けてくる果敢なる者らがあった。
男はそれらに向け、…──同胞に向け、迷うことなく槍を振るう。
────がつ。と、槍の穂先が再び敵兵を薙ぐ。
その衝撃に、背から腹に巻いた包帯が湿り始めた。
さすがの軟膏も、この短期間では万能では有り得ない。
男の額に汗が滲む。微かに唇の端が*上がった*]