人狼物語−薔薇の下国

497 堕天の服従試験


邪眼の怪物 クレメンス

[指先から別離したというのに、彼に纏わりつく漆黒の泥は重力を受け付けず、翼の付け根に蟠り続ける。感触は柔らかいのに、翼を駆動させても払えない。

 男は種族として確立した魔族ではなく、単一個体の怪物であった。
 彼を戒めるのは、我が身の欠片。背中を這う感触すら、己の五感として拾う食指。

 彼の瞳に張る水膜に厚みを持たせ、咽喉を絞る悲鳴に、天の調べを拝聞するよりも恭しく耳を傾け。>>273

 無理に動かすのはお勧めだ。
 ――― ほう…、翼を開くとここが動くのか。

[背中に張りついた闇色は、人型の五指に代わり彼を知る。
 浮き上がる肩甲骨に、細かく落ちる羽毛。
 拘束の腕を幾らか緩めても、彼に課せられる不自由に変化せず。

 故に、翼を叱咤し、空へ逃れる望みは一縷だけ。
 彼が必死に掴めるように垂らした希望の糸。
 玩ぶ悪辣に耽る男は、相変わらず虫も殺さぬ顔で笑んでいる。]

(305) 2018/03/20(Tue) 02:14:26

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