[ヨアヒムには声を掛ける言葉は無かった。どうせ「へえ、無事だったのか。」だとか。心にもない言葉が口を突いて出て来てしまうだけだろう。幾ら何でも、ヨアヒムだけは雪崩に巻き込まれてしまえば良い、とは思っていない……筈だ。
だが、自室へ戻ってきてから二人一緒に帰ってきた姿を思い出してはどうしようもない気持ちになってしまう。
確かに宿屋に戻って来たヨアヒムを見て一番に感じたのは安堵だった>>257。それは自分自身で気が付いているのに良く分からなくなる。
ヨアヒムは忘れてしまったかもしれないけれども。村に来たばかりで村の子供達と馴染めなかったアルビンを初めに遊びに誘ってくれたのはヨアヒムだった。直ぐに他の子供達同様に生意気な悪ガキになってしまったけれども、
――母と一緒に前の村から逃げ出す様にこの村へ越して来たせいか、本当は怖がりの子供だったから。ほんの些細な出来事かもしれないけれども子供のアルビンはとても感謝していた。
だから村を出ると決めた時に一番真っ先にヨアヒムに話したのだ>>0:391。]