―10年前・教会―
[目を覚ましたら、知らない部屋だった。
傍にいるはずの存在を探してきょろきょろと部屋を見回しても、知らないところ、知らないものばかり。
そして大切な者の顔も声も、何もかもが思い出せなくて。部屋の壁と同じくらい、頭の中が真っ白だった事に気がついて。
とても――悲しくて。
大きな声でわんわん泣いて、廊下に出た。
子供が目を覚ましたとき、誰も傍にいなかったと事に気がついた大人達がしまったという顔をし。
シスター達が優しく声をかけてくれても、立ち止まることも、耳を傾けることもせずに、ひたすら廊下を走る。]
い――、うっ!
[夢中で廊下を曲がり突然、どん、と何かにぶつかる。
見上げれば――長い銀色の髪の毛と、優しく穏やかな瞳がそこにあって。]
……っ、――…ッ
[涙でくちゃくちゃの顔を、やわらかい布に押しつけた。*]