― 温泉出発前 ―
[膝をつき、手をついて、その長身を低く下げ、願いを口にしたサシャを>>71男は静かに見下ろした]
顔を上げ給え、サシャ・ヘイズナイト、私と共に来るなら、下を向く事も後ろを向く必要もない。
[男の言葉と同時に若い従者達が、さっと手を出して彼女が立つのを助けようとし、また嬉しげに彼女を乗せる筈の馬の轡をとった]
すでに小隊長という風格だな。
[面白くてならないという顔で、男は笑った]
大使殿、そういうわけだ、君達が彼女を連れて故国へ戻れる時まで、私が面倒を見よう。だが、働かざるもの食うべからずだぞヘイズナイト、まずは、私流の軍学を覚えてもらわねばいけないがな。
[この男流の軍学、それはまさに「面白いと思う事をやれ」というものであったりするのだが、それをサシャに伝える事が出来たのは帰領の騒動が一段落した後のことだったろうか。或いは、彼女と行動を共にすることになった私兵達が、何かの折に口にしたかもしれなかった*]