―城の一室―
ええ、あなたを思って持ってゆくわ。でも、沢山手折ってしまうのは可哀想だから少しだけ、ね。
[杜若を所望されれば、少女は記憶を手繰ってその花を思い出す。アヤメによく似た濃紫色の花。]
杜若。…なんだかエルさん、あなたによく似たお花ね。
「幸運は必ず来る」わ。
[確か杜若が咲くのは水辺だったかしら、などと考えながら。出された水をお礼を言ってから口に含む。
味気ない水の味に、少女は思い出したようにもうひとつ、提案を。]
お水だけでは味気ないわよね。
私、ここに来る前に茶会の間に寄ってきたの。
そこで紅茶も貰ってくるわ。
綺麗なお花に、温かい紅茶。これで随分気が紛れるのではなくて?
[勿論、血の味に比べれば紅茶も味気ないことには変わりないけれど。それでも水だけよりはずっとマシなはず。]