− シコン −
[夜、アレクトールは今は亡きファミルと最後の夕餉をとった食堂にいた。
アレクトールとファミルが会ったのは、まだアレクトールが皇太孫の時分。
移動中の帝国軍が、積み荷を狙った賊からアンティーヴの商団を守った折だった。
商団長は感謝とともに帝国軍の勇猛さを誉め称え、「帝国が守ってくれれば安心」と傍らのファミルに語る。
リップサービスだったのだろうが、幼いアレクトールにとって、庇護対象ではなく守る側と見なされることは目新しく、義務とも誇りともなった。
アレクトールより8歳年上の異性であるファミルは遊び相手には向かなかったが、騎士が献身の対象とするには申し分ない淑女であった。
次の街まで同道する間、なんとなく彼女の側では背筋を伸ばして、海辺で拾ったきれいな貝を偉そうにプレゼントしたりしたものだ。
大人になって再会しても、色恋抜きの崇拝を抱ける特別なひとであった──]