― ストンプ港 ―
[ ストンプまでの航海は今が戦時下であるとは信じられぬ程平穏なものだった。
開戦の報を聞いて財産や家族を疎開させようとする豪商達や、軍の船が常より慌ただしく行き来はしているものの、最前線の海域にはまだ遠く、妨害も無いとなれば元より速度重視で選ばれた艦の船脚も伸びる。
そうして、通常は二日半を見込む航路を一日半で渡り切り、ストンプ港に二隻の巡洋艦とほぼ船倉を空にした随行の石炭船二隻が入港したのは、シコン港陥落から三日目の朝だった ]
ストンプ候に面会を願いたい。
…ウェルシュ殿の事だ、ドックか造船所だろう?こちらから行くから、居場所だけ教えてくれ。
[ 造船や整備に関わる全てがフル回転している今、船のこととなればじっとしていられない若き領主が屋敷に大人しくしていない事は明らかだったから、形式をつけた最初の要請の後、男は勝手知る者の気安さで、そう付け加えた ]