― 東海岸 ―
[ 炎の中、視線を敵船に向けた男は、かつて感じた安堵とは似て非なる、明確な危険の予感に目を細める。
果たして、しなやかなる美神の手から放たれた黒曜の矢は、過たず男の喉を貫く軌道で熱風を裂いた。>>216 ]
『閣下!!』
退け!
[ 身を投げ出し庇おうとした兵を、槍の一振りで跳ね飛ばし、同時に身に届く寸前に鉄の盾で矢を払う。
石の鏃は鉄に砕かれながら、破片となって男の眼前に飛び散り、その一片が、兜の下の額を掠めて小さな切り傷を作る。 ]
......っ!
[ その傷から感じる熱と痺れに、男は顔を顰め、低く喉を震わせて笑った。 ]
毒か...まったくもって、油断ならないな。
[ 常ならぬ痛みは感じる、けれど、男の体も視線も揺るがない。 ]