『ヘルヘイムより、死者の爪を』。
俺の作られた研究施設は、十五年前に封鎖された。
俺以外、みんなガスで殺された。
一人だけ、サンプルとしてどうしてもって、
引き取り手がいたらしくて。
俺はねぇ、
――… みんなの身体から、はぎとられた爪なんだよ。
助けられなかった、一緒に死ぬことが出来なかった、
同じ地獄に行くことも出来ない、
がらくたの、欠片だ。
[助けることが出来なかった、
一緒に死ぬことが出来なかった。
目を閉じれば今も、幾重ものガラスの向こう、
助けを求めてもがきながら此方に伸ばされる、いくつもの、いくつもの、手が見える。
言葉にすれば、吐き出す息が、肺に落ちる空気が、焼け焦げるようで、
どうしようもなく、土色が揺れた。]