[けれど、次の瞬間、
顔を上げれば不意に、彼女の姿が間近に迫る。>>261
避けられなかったのは、警戒をしていなかったからかもしれない。
それでも、どうしたところで反射で動くこの体が『避けなかった』のは、
この心のどこかで――彼女とこうして向かい合うことを、その言葉の、行動のすべてを、
受け止めようとしていたからかもしれない。
襟首を掴んで、壁に押し付けられる。
首筋にひたりと押当てられたナイフの冷たさに、ただ、息を詰めて目を瞠った。]
――…
[投げかけられた問いに、呼び出された意味を知る。
理解と共に、この表情に宿ったものは、なんだったろう。
この状況下で、ガルー由来の実験体である自分が疑われるに十分であることは、理性が十分に理解出来ていて、
彼女がそれを疑わざるを得ないことも、分かっていて。
――抵抗しようとはしなかった。ナイフから逃れようともせず。
ただ、真っ直ぐに、彼女を見つめ返し、]