― 海の見える教会 ―
おや、懐かしい名だ。
そうか、ここに眠っていたんだね。
[墓碑に記された名はデズモンド・チェンバレン。
自分がまだルーウェン家のディルドレだった頃。
商人の青年を捕まえては叱責していた憲兵に、よく似た面影を持つ御仁だった。
王城のサロンで時折王や王子の側に立ち、厳しげな顔を崩さずに歌を聞いていた。
一度だけ、その横顔に深い陰りを落としていたことがある。
その理由を尋ねる程の間柄ではなかったけれど。少しは慰めになればと願って歌を捧げたのを覚えていた。
その後、ほどなくして軍を退役したと聞く。
供える花はあいにくと持ち合わせてはおらず、代わりにリュートの音色を捧げる。]