[この村に蠢く、様々な感情が頭の中をかき乱す。己に感情があるのなら、この上なく気分が悪くなっていたことだろう。
疑心暗鬼の連鎖は人の心を縛り付け、灰色に固めていく。覚悟と浅慮の境界すら曖昧にし、様々な思い込みが噴水のように湧き上がり、凍てついていく。酷い有様だ。]
――だからと言って、どうということもないのだけれども。
[心の中で呟く。このような状況にも適応できるタイプの一つが「観察のできる人間」だと教わった。この中では―少なくとも己に対しての視線では―シモンが当てはまるだろうか。あの観察>>196は疑似ではない正真正銘の観察だった。]
――当然、あの時間だけでは判断できないのだけれども。
[これもやはり、心の中で。
ペーターからヤコブへと向けられた敵意は己も関連していたためか一層強く流れ込んできたが、それでも流れ込んでくる全体の感情との対比ではごく一部にすぎないのだった。
やがて、ヤコブが再びやって来てからは、その行動を展覧会に飾られた絵画を見るかのように眺め、部屋へと戻っていくのだった。その間、誰かに何かを求められたのなら当然のように応じることもあっただろうか。**]