[延ばされる両腕を、受け入れようとする。>>267
けれど、その瞬間、
全身をぞくりと走り抜けるような本能的な警戒感――既に離れて久しいとはいえ、嘗て戦場で幾度となく自身の命を救ってきたそれに、はっと目を見開いた。
視界の端に、何か異様な、尖ったものが見えた。
それが喉笛に突き立てられようとする瞬間、思考が理解するよりも先に、身体が動く。]
――ッ…!
[迫る両腕から、その牙から、
後方へと咄嗟に飛び退ろうとするその身のこなしは、
人間にしては異様なまでに、速いもの。
けれども、それは所詮、すべてが底をつきかけたぎりぎりの体の抵抗で、
片手はかろうじて逃れても、もう片手から逃れられるかは分からない。
もし掴まれたなら、飛び退ることは叶わずに、がくりと勢いを殺され、引き寄せられるだろう。]