[拳が避けられればそれを収めて、くっくと笑う。
そして緩く腕をふるって、次はがしりと青年の肩を掴んだ。
かつての少年の背は記憶より伸び、
目を見交わす視線の角度は以前よりも格段に緩くある。
それに眼を細めて、少ししっかりした肩を確かめるようにぽんと叩く。]
…親父さんのこと、残念だったな。
[と告げるのは、昨年亡くした彼の養父のこと。
平原の民である父のない少年が、かつてどこか見知らぬ「父」を───「親子」を見るような視線を、自分らに向けていたことを男は知っている。
その彼が州都の軍医に養子として赴くことになり、環境の違いを案じはしたものの、以来良く過ごしているようだと風の便りに聞きながら、それは良かったとも思っていたものである。
その養父が昨年暮れに亡くなったとは、やはり風に聞いた。
風運ぶ者…即ちカークの齎してくれた情報により、男はそう聞き知っていたのだが。]
何もしてやれんで、すまなかったが。