[土煙の向こう、横たわった肢体に血の跡は残っていない。その代わり、青白かった唇に仄かな色が灯った。次第に熱が広がり、彼の目も覚めるだろう。] あ……ぅ……。[魂の宿った気配に安堵の吐息が零れる。もう身体を動かすことも出来ず、蔦に導かれるまま、扉に背を預けた。掠れた視界、震えた指で、床に手を伸ばす。弱々しい筆跡が、最期の言葉を記した。] "Viel Glueck."[男は静かに目を閉じる。穏やかな笑みを浮かべたまま、ただ、彼らの未来を祈って。]