―過去―
[傭兵として転戦を重ね、四年近い歳月。
既に、日常的に菓子を口にすることがなくなって久しい。
代わりにポケットに入れた棒砂糖は味気なく、殆ど、体力を補給する為だけに利用されている。
たまに帰る本国で口にする菓子は、懐かしい味である筈なのに、きつい香料の所為か、どこかなじめない気がしてならなかった。
――九年間に味わった幸福が、それほど大きかったのだと――それだけの理由かもしれないが]
(……彼は、どうしているだろうか)
[時折、思い出す。一級下の、魔法のように甘いものを生み出したパティシエ。
彼の開く料理教室に、味見役として入り浸っていたことは、我ながら図々しいと思いながらも、大切な、暖かい記憶だった]