[今は宿の部屋に置いてきた、鍵付きの日記帳。
雪が降り、真っ先にあの日記帳を出したのは、昔にあれを読んだことがあったから、だ]
[――曾祖父が100年前に痛感した、無力の記憶を記す文字群。
血に塗れた家々へ到底住んでいられず、逃げるように他の地へ向かったというのに、心はこの村へ残されたまま。何が出来たのか、何をすればよかったのか……そんな悔恨をぎっしり詰め込んで封をした、一冊の日記]
[指先から感覚を奪うこれが、形のない不安であって欲しいと思う。
ただ、もしもの事があったときには――この機会が幸運だったと言えるように、しなきゃいけない]