[ 顔を上げてと言われれば大きく見開かれた瞳は
目線の少し上、まっすぐ注がれる視線に吸い込まれる。
いけない、またお膝が汚れてしまう。
そうは思っても口にする余裕なんてなかった。
ただ視線をそらさずに主人の言葉を聞く。
"命令"の代わりに交わされる"約束"。>>230
私にはその違いがあまりわからないけど。
"約束"の内容はそれまで仕えていた貴族達が
感情的に、日常的に私へ与えていた恐怖を
貴族なら当たり前の行動を行わないというもの。
まさか、そんな事が…?
"わかるかい?"との問いかけにはやっとの思いで頷いた。
本当は混乱していて、全く思考がついていかなかったのだけど。
でも、何か求められたら迅速に応えなくては。
それが、叩かれないために必要だから。
────…でも。
あぁ、なんて事だ。
────疑えない
それは相手が主人だからという意味ではなく本当の意味で。
彼の瞳が私の目を通じて本気である事を伝えてくる。
きっと彼はさっき私が反応できなくても
叩く事はなかったと、そう思えた。
わからない、わからない。どうして"貴方"は
私が奴隷だと知った後も優しくしてくれるのですか?
私はまだ、黙ったまま。 ]