[確実に致命傷と思える傷を負わせなかったのは、余り狙いもしなかったのは。
矢張り、俺も何処か甘かったのだろう。
(希くは、ここで翳し返せるものならそうしてほしいとすら、片鱗に思いながら。)
見離したり降りたりしないと言った姿を見遣って、カットラスから手を離した。>>257]
そこまで言うなら救えば良い。
民も、部下も、国さえも、
[致命傷を避けたのは、王子がいた為に。
腕より口弁が先んだったのは彼の尚書官長補佐の手腕だろう。
武器を置いていったのは、王子のその言葉だ。
(救ってみせてほしいとすら思うのだから、矢張り、俺は傲慢なのだろう。)
そのまま踵を返して、立ち去った。
(血腥い事は嫌いだと言ったのに、結局俺も我欲に溺れる人間なのだなと、そう自嘲するのだ。)]*