―白い森―
[ゲルトとの待ち合わせぶりに訪れたその場所は、昨夜の血臭も飛沫も全て白に塗り潰されて、何事も起きていなかったかのように静寂に浸されていた。
抉れた樹氷すらも白雪に覆われて傷痕の無いように見えて。]
――…呆気ないモンだなあ。
[無意識に青年の口から滑り出たのはそんなこと。
そのまま佇んでいたなら、重苦しい灰色の空の奥から僅かに斜陽が地面へと差し込み始めていた。
…それでも黄昏ていれば、やがて薄暗くなり。
身体が冷えるのとは別に何処か落ち着かない心地になって、辺りを見渡した頃には、随分と宵闇が迫っていたのだった。]