― 遠い時の一幕 ―[──同い年のその少年と知り合ったのは、物心ついた頃だったか。屋敷の外に出すのを厭い、手元に置きたがる祖母への反発から、こっそり抜け出して。街を駆け回っている内に意気投合して、その日一日、一緒に遊んだ。街でも名立たる商家の末子たちが一緒に駆け回る様子は、さぞかし目立ったろう──とは、今だから言える事。その頃は、名前を人に教えるとなんだか妙な顔をされることが多かったから、つい、名乗るのは後回しにして。夕闇迫る頃にようやく、自分の名を告げた、のだが]