―或る呪われ者の追想―
かけがえのない友を得て、単なる口約束を実行してくれていることも。
屋敷に雇っていた使用人の娘が今は見習いをして、自分に好意的なこと。
赤毛の青年のように、忌避しながらも露骨には避けないでいるだけでも。
向かいの植物学者が特に何を思うでもなく普通に接してくれることも。
門番二人は、不真面目と真面目で釣り合いが取れていたと、今でも領主は思っている。
靴屋の主は気付いている兆候はないが、逃げ出すためという謳い文句の靴を快く作ってくれている辺り信用されているのだろう。
鉱脈の利権を狙う、レディも可愛いものだ。薄々感じていながらも分を弁えているところも好ましい。
だから。――――愛するこの地を離れるのだ。
黙って身辺整理をしていることが露見されたら(書類処理>>0:156)と、旧友や使用人見習いの少女とその母は怒るだろうな、と想像だに難くない。
金髪の門番のような、置き去りにされた者の悲哀を見れば身勝手なものだというのはわかっていた。(間違っても彼らはあそこまで露骨な方向には走らないだろうけれど。)